アモルファスシリコン半導体の電子物性はバンドギャップ中に分布する局在準位に大きく依存しており、その全容の解明が我々物性研究者に課せられた最重要課題の一つである。最近、この分野において提起されているホットな基本的問題は、アンドープ材料中の荷電欠陥の存在である。この材料での主要欠陥はシリコンダングリングボンドであり、これは電子占有状態により、正、負、中性の3つの異なる荷電状態をとりうる。スピンをもつ中性欠陥は、電子アンドープ材料では中性欠陥が荷電欠陥に比べ支配的であるという主張が従来より主流であった。ところが、最近、光誘起スピンの詳細な測定結果から中性欠陥よりむしろ荷電欠陥が優勢である可能性が示唆され、それに基づいた新たな欠陥構造モデルの模索が始まっている。この荷電欠陥問題にアタックするためには、スピンの起源および電子的特性を明らかにすることがまず第一に必要とされる。本研究ではここに焦点をおいた基礎研究を行った。得られた研究成果を以下にまとめる。 1)アモルファス半導体においては、同じ起源を持つ欠陥といえども、その周囲の構造乱れのため対応するエネルギー準位は禁止帯中に広く分布することになる。ダングリングボンドもその例外でなく、変調光電流法による調査の結果、低欠陥密度の試料において約0.3eVの半値幅をもつ準位スペクトルを構成していることが明らかになった。 2)電子スピン共鳴において観測されるスピンシグナルの温度依存性には欠陥の準位分布の形状および電子相関エネルギーの大きさと密接に関連している。この事実を踏まえ、欠陥特性の詳細な評価を行うべく、スピン数の温度依存性の測定を行った。その結果、低欠陥密度試料において規格化された温度依存性は1x10^<-4>/K、また低温で作成あるいは水素放出を施した高欠陥密度試料では3x10^<-4>/Kであることが判明した。 3)1)と2)の実験結果をもとにした理論解析の結果、低欠陥密度試料において電子相関エネルギーの値は約0.3eVであり、荷電欠陥に比べ中性欠陥が過剰に存在することが明らかになった。また、高欠陥密度試料では電子相関エネルギーの正確な見積にはいたらなかったものの、理論的に考えられるあらゆる場合について考察の結果、この場合には中性欠陥に比べ荷電欠陥は等量あるいは過剰に含まれていることが見いだされた。
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