研究概要 |
近年,マイクロマシンの要素技術である電磁型アクチュエータは、より小型化あるいは薄膜化される傾向にあり,反磁界の影響をどう抑えるかが,アクチュエータ開発の重要なポイントとなっている. 本研究では,この問題を解決するために,アルミニウム(以後,Alと略する.)の陽極酸化磁性皮膜を改良し,直径0.2μm,長さ100μmの針状の磁性粒子を膜面に垂直に無数に並べた磁気繊毛を開発し,これを利用して,小型平面アクチュエータを試作することを目的とした.本科学研究費補助金により,直径0.1μm,長さ90μm,すなわち,アスペクト比900の針状の磁性体が,膜面に垂直に無数に並び,膜面に垂直方向の保磁力が400Oe程度の垂直磁気異方性を有する磁性皮膜を作製した.以下に,本研究の概要を示す. (1)バリヤ層貫通処理の微細孔深さ依存性の検討 高アスペクト比を有する針状磁性体を作製するために,膜面に垂直に微細孔を有するAl酸化皮膜の膜厚を10μm〜90μmと増やし,Coの直流電析を行った.しかし,60μm以上では,電析時に皮膜に割れを生じ,Coの電電析行えなかった.めっき液と地下Alの電気導通をとるために行うバリヤ層(微細孔の底と地下Alの間に存在する絶縁層)の貫通処理時の電流波形を観察した結果,微細孔が深くなると,バリア層を溶解するための酸性液の拡散が困難となることがわかった. (2)穴の深さに依存しないバリヤ層貫通処理の検討 膜厚90μmの酸化Al皮膜を有する陽極酸化後の試料に,陽極酸化とは逆の極性の電流を流し,バリヤ層に貫通孔を開け,かつ,酸化Al皮膜を地下Alから剥離した(逆電剥離法).剥離後の酸化Al皮膜に,スパッタにより,直流電析のためのCu電極を作製し,Co直流電析を可能とした.この方法により,酸化Al皮膜の膜厚に依存しない直流電析が可能となった.Co直流電析後の試料の針状磁性体の回りを覆っている酸化Alを,化学溶解し,直径0.1μm,長さ90μm,アスペクト比900の針状のCo磁性体が、膜面に垂直に並んだ磁気繊毛皮膜を作製した. (3)2段階陽極酸化による反磁界の低減 針状磁性体間には相互作用による反磁界が存在し,皮膜の膜面に垂直方向の磁化を妨げている.微細孔の間隔を決める陽極酸化時の極間電圧を2段階(40V/120V)にすることにより,下地Alまで至る微細孔に選択的なものとし、Co直流電析が行われる微細孔の間隔を従来の3倍に広げた.この結果,膜面に垂直方向に磁化した場合の磁化曲線の角形比(残留磁化/飽和磁化)を,従来の限界値0.5から0.85と大幅に増大することに成功した.
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