大脳高次機能として重要な役割を担う記憶想起に関して、逐次差分法を用いて事象関連脳波を解析し、検討を行った。化学元素記号を視覚刺激として提示した時に、その記号名を想起することを作業課題条件とした。研究者が開発した逐次差分法を適用することで、検出の困難な記憶想起時の脳波を検出することができた。計測された脳波をトポグラフ表示した後、各人のトポグラフデータを個人ごとに規格化し、8人分のデータを平均してその分布を求めた。その結果、記憶想起課題ではFp_2およびFzを中心に前頭前野で負電位として脳波が現われている傾向が見られた。 次に、高次機能である論理数学的知性について調べた。被験者に簡単な数式を提示し、逐次差分法を用いて被験者が暗算を行っている場合の計算関連脳波を計測し、検討を行った。その際、左視野に数式を提示し、右視野には数式と同じ面積のランダムドットを提示して計算を行わせる実験と、左右視野の刺激を交替させた実験を行い、左右視野刺激別に検討を行って、計算脳波の左右差を解析した。測定された6人分の平均トポグラフを求めた結果、右視野刺激の場合には、得られた事象関連脳波の波形ピークにおいて、Czを中心とした頭頂野で活動が見られた。また左視野刺激の場合には、波形ピークにおいて右側前頭野と頭頂野で広く活動が見られた。 最後に、被験者が記憶想起を行っているときの脳波を取得し、リアプノフ解析およびフラクタル解析などのカオス解析を行った。その結果、記憶想起を行うことでリアプノフ次元は安静な場合に比べて次元数が上昇して不安定となり、相関次元も上昇することがわかった。
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