平成8年度に交付された科学研究費の補助により、等方粘土に初期せん断履歴を与えて異方性を生じさせた後に主軸の方向を変化させて再びせん断を行うという一連の実験を実施し、それにより以下に示す新しい知見を得た。 1.今回行った実験から、せん断履歴を受けた粘土の最大せん断応力面上における初期せん断始点からの累積せん断ひずみが、同じ応力のときにおける等方粘土の最大せん断応力面上のせん断ひずみよりも大きな場合には、その粘土は弾性的な挙動を示す。それに対し、せん断履歴を受けた粘土の最大せん断応力面上の初期せん断開始点からの累積せん断ひずみが、同じ応力のときにおける等方圧密粘土のせん断ひずみと同じかあるいはそれよりも小さな場合、その粘土は非弾性的な挙動を示すことが明らかになった。 2.上記よりせん断履歴を受けた粘土のその後のせん断変形挙動を決定する第1の要因は、せん断応力とせん断履歴によってそれに引き続く過程の最大せん断応力面上に生じるせん断ひずみの大きさであり、履歴を与える過程から再びせん断を行う過程に移行する際の主軸の回転によってこの最大せん断応力面上のせん断ひずみの大きさが変化するため、せん断履歴を受けた粘土の変形挙動には異方性が現れることになる。 3.また今回行った実験からせん断履歴を与える際のせん断応力が増加するに従ってその後に現れる異方性もより強くなることが明らかになったが、これは履歴を与える際のせん断応力が大きくなるにしたがって主軸の回転に伴う最大せん断応力面上の残留せん断ひずみの変化がより大きくなるために生じる現象である。 4.強度についてはせん断履歴の有無に関わらず変化しない。 今後は上記の知見をもとに粘土の応力・ひずみ関係の数学的な記述、つまり構成方程式の開発に取り組む所存である。
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