研究概要 |
本研究では、反応槽におけるSの物質収支によってのみでは解明できない生物膜内の硫黄(S)の循環を明らかにするために、生物膜内の硫酸塩還元活性、硫黄酸化活性及び代謝産物である硫化化合物の濃度分布を測定した。研究の結果、以下のような知見を得た。 (1)硫酸塩還元細菌及び硫黄酸化細菌の細菌密度分布と存在的な活性度分布 硫酸塩還元細菌(SRB)は好気性生物膜表面部に最も多く存在し(5×10^5 MPN/cm^3程度)、膜深さ方向に減少した。硫黄酸化細菌も生物膜全体に一様に分布していた。硫酸塩還元活性は表層部ではほとんど検出されなかったが、表層部から徐々に増加し中層部(膜表面から300μm程度)で最大値(30μm/cm^3/h)を示した。膜表面でSRB菌体密度が高いにもかかわらず活性が低い原因は、表層部では溶存酸素(DO)濃度が高くSRB活性が抑制されているためと考えられる。膜深部でSRB活性は有機物律速のため再び低い値を示した。一方、硫黄脱窒細菌(SDB)活性は膜全体で一様に認められたが深部で最も高い値を示した。膜深部ではDO濃度が低くNO_3,H_2S濃度が比較的高く、SDBの増殖に有利であったと考えられる。 (2)生物膜内の硫化化合物(S^0,FeS及びFeS_2)の濃度分布の測定 生物膜厚が一定となった実験開始から30日目の生物膜内の硫化化合物(S^0,FeS及びFeS_2)の濃度分布を測定した。S^0はFeS及びFeS_2に比較して、膜全体に30μmol-S/cm^3程度蓄積していた。これは硫酸塩還元活性により生成されたH_2Sの生物化学的酸化に起因するものと思われる。FeSはSRB活性の高かった膜表面から250μm付近で著しいピークを示し、表層部及び深層部では検出されなかった。 以上の結果をまとめると、好気性生物膜内にも絶対嫌気性細菌であるSRBが存在すること、また測定された硫化化合物の濃度分布とSRB及びSDBの活性度分布との間には良い相関関係が見られたことから500μm程度の好気性生物膜内にの硫黄循環が存在することが明らかとなった。
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