研究概要 |
幾何学的非線形性の影響を受ける構造物の動的な弾塑性挙動の基本特性を把握することを目的として,その弾塑性履歴を摩擦プレートによる履歴要素によって模擬し,力学的に理想化された振動台模型にこれを組み込み,パラメトリックな定常加振実験を行った。この振動台模型は,前述の摩擦プレートの他に,剛性の異なる2つの弾性バネとタイロッドを持ち,直列に配列される剛性の小さな弾性バネと摩擦プレートにより,履歴を有する抵抗機構を表現し,これにタイロッド+剛性の大きな弾性バネで,幾何学的非線形効果を付与させたものである。2つの弾性バネの剛性バランス及び摩擦プレートの降伏点は,模型の静的な復元力特性が極限点を持ち,アーチ構造物などに見られるスナップスルーを起こすよう調整した。この振動台模型は履歴が摩擦によって生じる仕組みになっているために,繰り返し使用可能であり,構造特性が同一な条件の下での基礎的な正弦波加振による詳細な検討を可能にしている。摩擦プレートの滑り挙動は模型の滑り面の精度や表面状態等により若干不安定な挙動をのこすものの,この種の履歴系の特徴的な振動特性を概ね模擬することができた。計測に関しては,通常の加速度計によるものの他,画像処理による非接触の変位計測を行った。周波数,入力レベルを様々に変えて加振実験な行った結果,安定した定常振動状態の他,非線形性の生起に伴って現れる複雑な振動性状が観察された。これらのデータの位相平面上での分析を通して,時系列データに見られる複雑な挙動の位相平面上の軌跡の中に,理論上予測される複数の定常解の軌道間の遷移挙動と見られる動きが確認された。これらの挙動の完全な数値シミュレーションを行うことは,模型の精度の問題から困難を極めたが,通常の振動台実験では観察することの難しい,幾何学的非線形性の影響を受ける履歴系の動的挙動を支配するメカニズムを実証することができた。
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