森本厚吉を中心に大正末期から昭和初期にかけて展開された文化生活運動のうち、主に文化普及会出版部による月間雑誌『文化生活』の中から、生活改善および住宅改良に関する記述をもとに、森本厚吉が理想とした文化生活像とその普及の方針について考察した。 (1)森本厚吉の住宅改良思想は、米国ボルチモアのジョンス・ポプキンス大学在学中に博士論文としてまとめられた“THE STANDARD OF LIVING IN JAPAN"を著した時点でほぼ完成している。後の単行本出版された著作においてもほとんど変化はない。 (2)月間雑誌『文化生活』を通して、森本厚吉は文化生活の正しい概念を啓蒙することに専念し、住宅改良に関する彼自身の細やかな著述は見られない。かわりに、夫人である森本静子が主婦を対象に「家庭管理」の一環として、文化生活思想に基づいた住宅改良の方針を著している。 (3)文化生活研究会時代(大正12年以前)は、建築全般について佐野利器にほとんど全てを頼っていたが、文化普及会設立後は、佐野利器の影は薄く、初期は文化アパートメントの設計を始めるまではW.M.ヴォ-リズが、それ以降は、主に住宅について山田醇が、建築全般を佐藤功一が担当する。 森本厚吉は、あくまで専門である消費経済学の視点からの文化生活像を説くのみで、事住宅改良に関しては、ヴォ-リズ、山田醇、佐藤功一という専門建築家に任せていた。これは、文化生活という思想のもとに各専門家が集った同会の活動を顕著に示すことで、森本厚吉のコーディネーターとしての役割を評価すべきことである。
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