本研究の目的は、日本と英国における歴史的建造物としての民家を比較考察することにあった。そのため、日英のそれぞれに関して、海運によって栄えた町の水路および陸路という2つの方向性をもつ町屋を例として取り上げ、以下のような考察を行った。 1)日本の民家に関して 北海道檜山郡江差町の町屋の実測調査を行った。景観としての町並みと10棟の町屋を実測し、図面を作成した。江差町の町屋は、これまで国指定重要文化財の中村家住宅および北海道指定重要文化財の横山家住宅の2棟に関しては報告書が刊行されていたが、これら以外にも歴史的価値を有する町屋が多数現存し、それらの実測図面を作成できたことは、有意義であった。 2)英国の民家に関して 英国の例として、江差町と建設背景が類似するキングス・リンの町屋に関して資料を収集した。キングス・リンの町屋に関しては、すでに報告書が刊行されており、これをもとに考察を加えた。 3)比較考察 水路と陸路の2つの方向性をもつ町屋の平面を検討すると、日英それぞれの例で、周辺の民家の平面に大きく影響を受けながらも、動線が重要視された計画になっていることが明らかとなった。これは主室とそれに従ずる室の配置が他の民家と異なるという点によく現れている。 本年度は、日英の民家に関してそれぞれひとつの類型を比較するにとどまった。今後は、他の町の例、また、他の類型の民家に関しても比較検討を行っていきたい。
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