研究概要 |
金属の粒界は材料の強度や集合組織の形態,相変態などの諸性質を支配する重大な領域であるが,その緩和構造やエネルギーの理解は難しい.本研究の目的は,AlおよびCuの結合状態を反映する強束縛(Tight binding)理論に基づいた多体原子ポテンシャル(ボンドオーダーポテンシャル)の開発と,そのポテンシャルの粒界構造のシミュレーションへの適用である. この研究を通して以下のような知見が得られた. i)Cuポテンシャルの開発:Alではsp軌道によって剪断定数や欠陥エネルギー等の物性が再現できていた.しかし,Cuでは単純なsp結合モデルあるいはd結合モデルでは剪断定数が再現できない.そこで,第一原理計算のLMTO-ASA(Linear Muffin Tin Orbital-Atomic Sphere Approximiation)で使われるMr軌道の基底をTB軌道の基底に変換し,spd結合モデルポテンシャルの記述に必要なTight Bindingパラメータを求めた.このパラメータを用いて計算した平衡力学物性(剪断定数,フォノン分散曲線)は実験結果をよく再現していた. ii)ポテンシャルの面欠陥への適用の妥当性の検証: Al:最も単純な粒界である,双晶粒界のエネルギーの計算を行なったところ,実験結果に近い値を示した. Cu:双晶粒界のエネルギーは再現できず,負の値を与えた. 現在,ポテンシャルの面欠陥への適用が妥当と判断されるAlのポテンシャルを用いて粒界のシミュレーションを行なっている.一方,Cuのポテンシャルの不一致の原因は,i)項で求めたポテンシャルではhcp構造に対してfcc構造が不安定であるためである.これは求めたTB軌道の基底が現実の系を表現するのに十分でないことを意味している.MT軌道の基底から単純に変換したTBパラメータではsp結合を含んだ系を記述するには不十分であることが示唆される.
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