イオン注入を利用して異なる注入イオン同士を選択的に反応できれば、マトリックス中に化合物が分散したニューコンポジットを合成できる。本研究では窒化鉄の磁気的性質を利用して、シリカガラス中にNとFeを連続してイオン注入した場合に、両者が選択的に反応するかどうかを検討した。シリカガラス(Corning 7940-excimer grade)に、室温、4μA・cm^<-2>の条件でイオン注入を行った。NとFeの深さ方向の分布が一致するように、TRIM89によってあらかじめシミュレーションし、N^+とFe^+注入エネマギ-をそれぞれ52keVと160keVに決定した。Fe注入量は6×10^<16>cm^<-2>で一定とし、N注入量を0から1.2×10^<17>cm^<-2>まで変化させた。Nの次にFeを注入した試料はN+Fe、その逆に注入した試料をFe+Nと記述する。強磁性共鳴(FMR)スペクトルの測定の結果、共鳴磁場H_s(θ)は、磁場の方向がイオン注入面の法線方向と水平である(θ=0°)方が垂直である(θ=90°)よりもおおきかった。化学組成N/Feに対してFMR吸収強度および角度依存性から計算した磁化を調べたところ、N/Fe〜0.2付近で極大を示すことが明らかにされた。このとき、両者の値は試料Fe+Nの方が試料N+Feよりも小さかった。窒化鉄の磁化はN/Fe組成比に依存して変化し、N/Fe〜0.125で極大を示す。したがって、FMRの結果は注入したNとFeの間に少なからず反応が起こることを示唆する。さらに、^<57>Feを用いて作製した試料の内部転換電子メスバウアー共鳴や上記の注入量を5倍にした試料のX線回折の結果から、この推論が正しいことが裏付けられた。
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