本研究では、溶液からの析出により色素を含むメソ構造を有する有機-無機ハイブリッド膜を基板上に直接合成し、高い光機能と耐久性を併せ持つ材料の創製を第一の目的とし、さらに非熱的な選択的電子励起による膜の改質手法の検討を第二の目的とした。 第一段階として、機能性色素としてレーザ色素ロ-ダミンBおよび非線形光学効果の大きいディスパーズレッド1(DR1)を含有するシリカ系薄膜の合成を試み、数種のシリコンアルコキシドの溶液系からの膜析出および色素の取り込みについて検討した。その結果、フェニル基を有するシリコンアルコキシドを色素と共に水に溶解し、pHを調整して、基板上に色素含有薄膜を形成することが出来た。この薄膜の紫外-可視スペクトルは色素溶液のそれとほぼ一致しており、色素は膜内で良好に分散されている。またX線回折によれば色素を含まない膜にはない低角のピークが見られ、色素を構造単位とした10Åオーダーのメソ周期構造の形成が示唆された。DR1含有薄膜にポーリングを施し第2次高調波発生を測定したところ、薄膜中の色素は電場により配向しないことが示唆された。以上の結果から色素分子が強固に無機骨格に保持され、メソレベルの周期構造が形成されたと考えられる。また、保持された色素のより高度な活用のためには薄膜形成時における色素分子の配向性制御が必要であることがわかった。 第二段階として、電子励起による薄膜の改質のため、180kVの電子線を400Mrad以上照射すると薄膜は緻密化するが、色素分子も分解され、非熱的プロセスとしてのメリットが得られなかった。今後は電子線のエネルギー制御あるいは光子による電子励起を検討する必要が有る。
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