研究概要 |
本研究では,超臨界流体を溶媒とした場合の特徴的な溶媒和構造についての系統的研究を行い,その溶媒和構造のモデル化を目的とした.さらに,溶媒和構造のモデルを状態方程式に導入することにより,超臨界混合系に広く適用可能な状態方程式の構築を試みた. 始めに,赤外分光法(Infrared Spectroscopy)を用いて超臨界二酸化炭素-ベンゼン誘導体(一置換体)系のIRスペクトル測定を行い,得られたIRスペクトルの解析により超臨界流体中における溶媒和構造の密度依存性について検討を行った.溶媒和構造を表す指標として溶質周囲の局所溶媒密度とバルクの溶媒密度の差である局所過剰溶媒密度を取り上げ,各置換基及びベンゼン環周囲の局所過剰溶媒密度を算出した.その結果,本研究で取り扱った系では,溶質周囲にバルク密度に比して溶媒密度が大きくなった局所的な溶媒和構造が存在し,その溶媒密度が置換基とベンゼン環周囲では異なる溶媒密度で形成されていることが明確となった.さらに,各置換基及びベンゼン骨格周囲の局所過剰溶媒密度の密度依存性は,すべて同一の関数形で表現可能であることが示唆された. 次に,モデル化した溶媒和構造を状態方程式に導入して,超臨界混合系の溶解度推算を試みた.超臨界二酸化炭素を溶媒とした気固平衡を対象とした場合には,溶媒和構造を考慮することにより,臨界点付近の推算精度が大幅に向上した.これは,溶媒和構造が臨界点近傍で形成されているという従来の指摘と一致しており,溶媒和構造のモデル化の妥当性を意味しているものと考えられる. このような溶媒和構造に関する研究は,本研究は超臨界流体を利用した高度な工業化技術の開発に対しても,貴重な知見を与えるものである.しかしながら,本研究で取り扱った系は限られており,超臨界流体中の溶媒和構造を広く検討するためには,さらに広範囲での実験及び推算が必要であることが示唆された.
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