研究概要 |
光合成反応中心は光誘起電子移動反応により光エネルギーを電気化学ポテンシャルに変換する機能を有した色素-タンパク質複合体である。紅色光合成細菌Chromatium (C. ) tepidumは最適生育温度が高く、反応中心タンパク質自身も熱に対して安定である個とが知られており、C. tepidum反応中心の立体構造-特に色素-色素間,色素-タンパク質間,タンパク質-タンパク質間の相互作用-に関する知見は反応中心の工学的応用に欠くことのできない重要な情報である。まず、色素-色素間の相互作用の情報として、反応中心の磁気円偏光二色性測定を行い、B/D(電子双極子強度(D)とFaraday B項強度(B)の比)という指標を新規に導入することで反応中心第一電子供与体スペシャルペアがバクテリオクロロフィルの二量体であることを解明した(Spectrochim. Acta PartA 51, 585)。我々はこの際に導入した指標(B/D)は磁気双極子強度を示し、光合成色素会合体の会合次数に反映することを同時に明らかにしたことから、今後様々な光合成色素の会合構造解明に役立つと考えられる。次に、色素-タンパク質間相互作用の情報として、スペシャルペアとその周辺のアミノ酸残基との相互作用-特にスペシャルペアを構成しているバクテリオクロロフィルとアミノ酸残基との水素結合-をResonance Raman測定により明らかにした(Biochemistry 32, 10529)。この結果、C. tepidum反応中心スペシャルペアのバクテリオクロロフィルの中心金属マグネシウム原子はヒスチジン残基と,C2アセチルカルボニル基はチロシンおよびヒスチジン残基と水素結合を形成し,C9のケトカルボニル基は周辺のアミノ酸残基と水素結合を形成していないことが分かった。また、我々はC. tepidum反応中心の結晶化に既に成功していることから、この反応中心の立体構造解明からタンパク質耐熱部位の特定が期待されている。現在まで、X線結晶立体構造解析に不可欠な知見である反応中心の1次構造決定がなされていなかったが、C. tepidum全遺伝子を鋳型とし、PCR法を用いてC. tepirum反応中心の1次構造の一部を明らかにした(Photosynthesis Res. in press)。
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