研究概要 |
本研究は,撹拌により生じる流体ストレスに対する植物細胞の代謝応答とアクチン繊維(F-アクチン)構造との関連の解明を目的とした。これまでの検討において,撹拌ストレスにより,細胞内カルシウムに媒介されたNAD(P)Hの低下が生じるとともに,細胞膜の透過選択性が低下することが観察されている。 ベニバナ細胞を用いてF-アクチンの撹拌ストレスによる変化の測定およびカルシウム阻害剤の効果の検討を行った。撹拌培養は,培養液量550mLの撹拌槽およびスピンナー回転子(培養液量100mL)を用いて行った。対照培養としてフラスコ振とう培養を行った。F-アクチン量は特異吸着を行う蛍光色素NBD-ファラシジンの吸着量測定により評価を行った。 その結果,F-アクチン量は撹拌ストレスにより低下を示した。膜電位依存性カルシウムチャンネルの阻害剤であるベラパミル,カルモジュリン阻害剤であるW-7を添加した場合,その低下は抑制される傾向が観察された。両阻害剤は膜透過選択性の撹拌による低下についても,抑制することが観察された。しかしながら,これら阻害剤の効果については,統計的な有意差が認められるに至っていない。 F-アクチン量の低下と,膜透過選択性の低下の関連について,アクチン脱重合剤であるサイトカラシンBを用いて検討を行った。50mg/Lのサイトカラシンで処理した細胞について撹拌を行ったが,膜透過選択性の低下は無処理のものと変わらない値を示した。但し,サイトカラシンの作用濃度について非撹拌系で検討したところ,100mg/Lのサイトカラシンで処理した細胞は膜透過選択性の低下を示した。 現在,得られた観察結果の再現性を検討するとともに,100mg/Lサイトカラシンで処理した細胞の撹拌ストレス感受性について追実験を行っている。
|