研究概要 |
当研究室で開発された新規ルイス酸型レセプター、アルミニウム トリス(2,6-ジフェニルフェノキシド)(ATPH)はキャビティを有するアルミニウム反応剤であり、ルイス塩基と酸塩基複合体を形成する際に、基質の微妙な立体的差異を認識したり、取り込まれた基質はキャビティを形成する3つのフェニル基の立体的、および電子的効果を受けて特異な反応性を示す。これらの効果によってATPHは、α,β-不飽和カルボニル化合物との酸塩基複合体形成の際に、様々な求核攻撃からカルボニル基を保護することが分かっている。この結果は、反応剤の合理的な設計が精密有機合成において重要であることの一つの証明であり、今回、ATPHを用いる手法の更なる応用として、α,β-不飽和カルボニル化合物の高選択的1,4還元とその不斉合成への応用を行った。 1)今回の還元系ではATPHがα,β-不飽和カルボニル化合物のカルホニル基に配位しているため、アート錯体型還元剤が有効であると推測された。実際に、ATPHとの組み合わせにおいて最も相性の良かったのはn-BuLiとDIBAL-Hのアート錯体型還元剤であった。 2)次に、様々なα,β-不飽和ケトンの還元を試みたところ、いずれの計においても、>99%以上の位置選択性と>95%以上の化学収率で1.4-還元体が得られた。 3)続いてα,β-不飽和アルデヒドについても検討したところ、還元剤としてはt-BuLiとDIBAL-Hの組み合わせが有効であることが分かった。特に光、熱、酸などに不安定なレチナ-ルの高選択的1,6-還元に成功したことは,今後必要となるレチナ-ルの選択的官能基化に先駆けるものとして注目に値する。 4)1)、2)、3)から得られてくる知見を基にこれまでにない新たな不斉1,4還元反応の実現を目指した。今回の還元系では、不斉源を還元剤側に導入した。すなわち、ATPHとカンファーから誘導したアート錯体型キラルアルミニウム還元剤を用いて3-メチルシクロヘキセノンの1,4-還元を行ったが、不斉誘導はほとんど起こらなかった。
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