研究概要 |
数多くの有機ケイ素化合物が有機合成に利用されている。しかしながらシラノールについては一般的に不安定で容易にジシロキサンに変換されるためほとんど有機合成には用いられていない。アルコールの求核性を利用する反応はよく知られているに対し、対応するシラノールの反応は数少ない。例えばヨードニウムイオン存在下アルケンにアルコールを作用させるとヨードエーテル化が容易に進行する。ところがシラノールを同様の条件下でアルケンと反応させても対応する付加体は得られない。シラノールの酸素の求核性がケイ素によって低下しているためである。そこで今回シラノールの有機合成への利用をはかる目的で分子内にオレフィン部をもつシラノールを合成し、ヨードニウムイオンによる分子内シリルエーテル化反応について検討した。 3-ブテニルジフェニルシラノールにビス(2,4,6-トリメチルピリジン)ヨウ素(I)ヘキサフルオロフオスフェートを作用させると5員環生成物である5-ヨードメチル-2,2-ジフェニル-1-オキサ-2-シラシクロペンタンが94%の収率で得られた。これに対しオレフィン末端に二つのメチル基をもつ4-メチル3-ペンテニルジフェニルシラノールでは6員環化合物5-ヨード-6,6-ジメチル-1-オキサ-2シラシクロヘキサンのみが収率よく得られる。炭素鎖を一つ延ばした基質では6員環生成物が得られるが、この場合にもオレフィン末端にメチル基を二つ導入すると7員環化合物が主生成物となる。さらにメチレン鎖をもう一つ延ばしたシラノールである2,6-ジメチル-5-ヘプテニルジフェニルシラノールにヨードニウムイオンを作用させると8員環化合物が主生成物として得られる。このようにシラノールの分子内環化は対応するアルコールとは異なった位置選択性で進行すること、すなわちendo環化が優先するということが明らかとなった。
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