チオール基とフェニルボロン酸基を両末端に持つ脂質を合成し、これを用いた単分子膜修飾電極上での糖認識機能をサイクリックボルタンメトリー(CV)およびオスターヤングスクエア-ウエーブボルタンメトリー(OSWV)を用いて検討した。 糖存在下、非存在下におけるフェリシアンイオンの酸化還元挙動をCVを用いて検討した。糖の存在をフェリシアンイオンの酸化還元電流値の減少として検知するため、比較的被覆率が小さい単分子膜を作成した。この系に0.1MのD-フルクトースを加えるとフェリシアンイオンの酸化還元電流値が約1μA減少した。これは、糖非存在下では修飾電極の被覆率が小さいためフェリシアンイオンが容易に膜中を透過し酸化還元を起こすことができるが、糖存在下ではボロン酸が糖と結合することにより膜表面が負に帯電し、フェリシアンイオンの酸化還元をブロックしたためである。 糖センサーとしてこの電極を用いる場合、できるだけ低濃度の糖に反応することが望ましい。しかしながら、CVは容量電流のため対象となる信号のファラデー電流の検出が必ずしも容易ではない。そこで容量電流を除去でき高速掃引が可能なOSWVを用いて低濃度の糖の検出を検討した。 D-フルクトースを0〜50M加えた時のOSWVのボルタモグラムは、D-フルクトースを5μM加えただけで急激なフェリシアンイオンの酸化還元電流値の減少を示した(この濃度ではCVの変化は微小であり検知が困難である)。また、D-グルコース、D-マンノースを加えたときもμMオーダーで電流値が減少した。各糖における電流値の減少量の違いはボロン酸と糖との結合定数に起因する。したがって、この電極を用いたOSWV測定を行えばppmオーダーの糖が検出できる。15EA05:これまでボロン酸を用いた糖認識において分光学的手法を用いた糖検出は数多く行われてきたが、デバイスとして構築した系はこれが初めてである。それぞれの糖に相補的なボロン酸配置を分子設計した化合物を用いればさらに高選択的な糖認識センサーを構築できるであろう。
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