高分子結晶をポリテトラフルオロエチレン(テフロン:PTEF)超薄膜上にエピタキシャル生長させ、分子鎖に垂直な方向から高分解能観察することにより、結晶表面付近での微細構造を解明することを試みた。 まず、PTEFのロッドに荷重をかけながら、ほぼ一定の速度と圧力でスライドガラス上を掻引することの出来る、薄膜作成装置を作成した。この装置を用い、約500〜600kPa、0.5mm/秒、基板温度200〜300℃の条件で、TEFの超薄膜を得ることが出来た。この超薄膜は厚さ数10nmであり、透過型電子顕微鏡(TEM)の試料支持膜として用いることが出来た。 この超薄膜上に種々の結晶性高分子を溶液から結晶化させることを試みた。ポリエチレン(PE)はp-キシレンの0.01wt%溶液からエピタキシャル生長した。シンジオタクチックポリスチレン(s-PS)とポリエーテルエーテルケトンは、稀薄溶液からは膜状に結晶を生成しなかったが、溶液をPTFE超薄膜上へキャストすることによりエピタキシャル生長した。ナイロン66、ポリオキシメチレンはエピタキシャル生長しなかった。 s-PSはPEと比較して、格子定数が大きくTEMによる高分解能観察が容易であるため、現在この試料について極低温高分解能TEMを用いた実験を行っている。キャストして作成した試料なので、異なった配向(分子鎖に平行に電子線が入射する)の結晶が混在するのだが、それらについては4.5Åの分解能を持つ像が得られた。この事から、エピタキシャル成長した結晶についても高分解能観察が十分に可能であると考えられる。
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