研究概要 |
鋼材の応力〜ひずみ構成関係はひずみ速度及び温度の影響を受けることが一般的に知られている。研究代表者らは,ひずみ速度及び温度の関数であるstrain rate-temperature parameter (R)の関数としての構成方程式を引張荷重,(室温より)低温度という条件下での実験結果より導出した。ところが,構造物には衝突などによる圧縮荷重も作用する。また高速負荷時には塑性仕事に起因する局部温度上昇が生じ,瞬間的には数100℃の温度上昇を生じることもある。従って本研究では,研究代表者らが提案しているR値に基づいた構成方程式がより広範囲の条件下で適用できるか否かを検討した。 船舶などの大型溶接構造物に用いられる溶接構造用鋼(SM400B,HT80,9%Ni鋼)及び,新たに規格化された建築材料用鋼(SN490B)を用いて,-100℃〜50℃の雰囲気温度下で,任意負荷速度下での引張及び圧縮試験を実施した。これらの実験結果より,それぞれの鋼材のR値と降伏点(σ_Y)の関係及びσ_Yとひずみ硬化係数(n)の関係を調査した。その結果,上記の関係は引張,圧縮の区別なく統一的に表せることが判明した。次に,この結果を利用して引張・圧縮のそれぞれの場合について応力〜ひずみ関係の推定を実施し,実験結果との比較を行い,今回実験を実施した広範囲の温度,ひずみ速度下において実験結果と推定結果は良い一致を示した。 以上の結果,引張・圧縮荷重の区別なく,構造物の安全性を検討するためには十分な温度範囲においては,上述の構成方程式が成立することが明らかとなった。このように,R値で材料の構成関係が規定されるので,種々の物理現象がR値を媒体にして評価できることが期待される。
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