まず、不稔遺伝子の染色体上での物理的位置を推定するため、オオムギ第5染色体(1H)長腕の関与する相互転座系統(3系統)とコムギとの交雑から、転座第5染色体をコムギに導入した系統を育成し、切断点と稔性との関係を検討した。その結果、第5染色体長腕の動原体から約50%までの領域を導入した系統は正常な種子稔性を示すこと、また、第5染色体の長腕の末端から5%が他の染色体(第2染色体)に転座した染色体を添加しても種子稔性は正常であることがわかった。これらのことから、オオムギ第5染色体上の不稔を引き起こす遺伝子は長腕上の50〜95%の領域に位置することが明らかになった。次に、第5染色体によって誘発される不稔性は、オオムギ第6染色体(6H)によって部分的に緩和されることがわかっているが、その不稔緩和遺伝子は第6染色体の長腕に存在することを明らかにした。このように、第5染色体長腕の動原体から50%の領域および末端から5%の領域をコムギに導入することに成功した。現在、導入された第5染色体領域を容易に検出できる分子マーカーを検索中である。 さらに、エギロプス(Aegilops)属由来の配偶子致死染色体の持つ染色体切断作用を利用して、不稔遺伝子を除去するための実験系統を育成した。この系統はオオムギの第5及び第6染色体に加えて配偶子致死染色体を1本ずつ持ち、雌性稔性がある。現在、戻し交雑後代の細胞学的調査によって不稔遺伝子を含むできるだけ小さい部分の欠失を起こした染色体の選抜を試みている。
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