コムギにおけるMADSボックス遺伝子(floral organ identity gene)を単離し、その機能を解析するため、まず、コムギ品種農林26号の頴花分化期の幼穂(3〜10mm)から定法により、cDNAライブラリーを作成した。次に、MADSボックス領域PCRプローブを用いて、ライブラリーからMADSボックス遺伝子cDNAを単離した。スクリーニングの結果、2.2x10^4プラークから8つのcDNAクローンを得た。cDNAの大きさは500〜1300bpであった。そのうちの一つ(TaMADS♯11)について、全塩基配列を決定した。 MADSボックス遺伝子は、その発現領域からクラスA、B、C遺伝子の3つに分類されるが、TaMADS♯11はクラスA遺伝子と高い相同性があり、コムギにおけるクラスA遺伝子であると思われる。クラスA遺伝子は顎片と花弁の形成に関与しており、これらの器官のないコムギにおいて(相同な器官として鱗被がある)、TaMADS♯11遺伝子の機能が何であるか興味深い。 サザン分析の結果、TaMADS♯11遺伝子はゲノム中、複数コピー存在することが示された。ノーザン分析の結果、TAMADA♯11遺伝子は葉ではほとんど発現がみられず、幼穂で特異的に発現していることが明らかとなった。幼穂(3〜10mm)から出穂期の穂まで、発育段階をおって、ノーザン分析を行ったところ、穂の発育に伴って、発現量は減少することが明らかとなった。また、幼穂のin situハイブリダイゼーション実験の結果、TaMADS♯11遺伝子は頴花原器で特異的に発現していることが明らかとなった。 以上の実験結果から、コムギMADSボックス遺伝子TaMADS♯11は、コムギの穂、小穂、頴花、花器官形成に関与していることが、示唆された。
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