研究概要 |
登熟初期の体内窒素含有率が高い水稲では粒重増加が緩慢であることは広く認められている.この原因の一つとして,登熟不良の玄米中には多量なアンモニアが存在し,玄米中のアンモニア態窒素濃度と粗玄米千粒重とは負の相関関係にあることを著者ら(1995)は報告した.そこで出穂期に玄米中のアンモニア態窒素濃度を高める処理を行い,粒重増加が抑制されるかどうかを確かめる実験を行った. 品種コシヒカリ,日本晴を1/3500aプラスチックポットに移植し,主稈1本で生育させた.グルタミン合成酵素(GS)の活性阻害剤のビアラホスを穂部に供給する区,グルタミンを穂部に供給する区,両溶液同時処理区および出穂後に追肥して葉身窒素含有量と同化量に差をつける処理を行った. ビアラホス処理区の同化量,乾物重とも対照区と差はなかったが,粗籾千粒重は処理濃度が高い程抑制された.その結果,グルタミンとして同化されないアンモニアは平均19.1μmol/gと対照区の平均3.2μmol/gに比べて6倍も玄米中に蓄積していることを認めた.この玄米中アンモニア態窒素濃度と粗玄米千粒重との間に1次,2次枝梗着生籾それぞれで高い負の相関関係が認められた.グルタミンを供給することでアンモニア同化の代謝が回復すると考えられたが,グルタミン同時処理区のアンモニア態窒素濃度は平均13.7μmol/gで対照区よりも多量に蓄積していた.そのため,グルタミン同時処理区の粗玄米千粒重は玄米中アンモニア態窒素濃度に応じて大きく抑制された.さらに,葉身窒素含有率と玄米中アンモニア態窒素濃度との間には高い相関関係が認められ,玄米中アンモニア態窒素濃度は葉身窒素含有率を反映していることを認めた.これらのことから,ビアラホス処理区ではGS活性が阻害されて窒素代謝に異常をきたし,多量に蓄積したアンモニアが引き金となって粒重増加が抑制されたものと推察された.
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