研究概要 |
気象とイネの窒素栄養状態,繁茂度,受光態勢などから群落の光合成および乾物生産を量的かつ動的に説明するモデルの開発を試みた.まず,群落光合成および乾物生産の基本となる個葉の光合成速度の光飽和値と葉身窒素の関係を,全生育期間を通して実験的に検討した.すなわち,大きく異なる窒素供給条件下で水稲を栽培し,生育期間中計6回,快晴日の光合成速度の測定を携帯用光合成測定装置(Li-Cor社製LI-6200)を用いて行った.また,光合成測定後には葉位ごとに窒素成分の分析を行った.光合成の光飽和値と窒素の関係は高い正の相関を示したが,その傾きはステージとともに低下する傾向にあった.その変化を発育ステージの関数で表すことにより,全生育期間にわたり窒素と個葉光合成速度の光飽和値の関係を定式化した.得られたパラメータからすると,個葉の光合成速度は幼穂形成期頃に比べ出穂期で約10%,成熟期で約40%減少することが示された.群落の光合成速度は,このようにして得られた個葉の光合成速度を層ごとに積算することにより求められる.さらに,これより呼吸速度を差し引くと乾物生産速度が得られる.ただし,25℃における維持呼吸係数も発育ステージの関数で表した.このようにして構築したモデルを実際の圃場試験で得られたデータで検証したところ,きわめて高い適合度を示すことがわかった.また,日射利用効率は生殖生長中期をピークに成熟に向けて徐々に減少し,成熟期には最高時から約0.5gMJ^<-1>程度低下することが示された.つぎにモデルにパラメータの簡単な感度解析を実施したところ,光合成速度あるいは維持呼吸率の発育ステージに伴う変化は,全体の乾物生産に対して約15%程度の影響を持つことがわかった.このモデルは葉面積や窒素吸収サブモデルと組み合わせることにより,広い範囲の窒素や気象に対応するモデルとなりうるものと考えられた.
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