研究概要 |
カンキツbrown spot病菌は,近年多くのカンキツ栽培国で重要な病害となっている。本病の病原性決定因子は宿主特異的ACR毒素と考えられているが,その他の病原,病徴因子については何の報告もない。本研究においては毒素以外の病原,病徴因子として,本菌の分泌する細胞壁分解酵素の単離,生化学的諸性質,遺伝子クローニングおよび遺伝子破壊法による酵素の病理学的評価を目的とした。ポリガラクツロナーゼ(PG)に関する研究では,ヘテロロガスプローブを用いた本菌染色体遺伝子のサザンブロット解析により,本酵素遺伝子は単一である可能性が示された。また本菌の培養ろ液にはPG活性を示す画分は一つしかなく,この画分を単離したところendo型のPGであることが明らかとなった。単離には硫安沈殿,CMsepharose,イオン交換HPLC,ゲルろ過HPLCを用い,培養ろ液2.5Lから約230μgのPGを単離し,精製における比活性は粗抽出液に対して30倍であった。この単離endoPGはSDS-PAGEでの分子量6万,等電点8.8の糖蛋白であり,至適pHは5でKm値とVmax値はそれぞれ0.1mg/ml,4.76*10^<-3>mmol/min/mgであった。本endoPGのN末端アミノ酸配列は,GPDDIYAと決定した。この配列中のDDIYAと,現在までに報告されている糸状菌のendoPG遺伝子のアミノ酸配列情報の相同性検索により得たモチーフNQDDCを基にPCRプライマーを合成した。これらのプライマーを用いて本菌の染色体遺伝子を鋳型にPCRを行ったところ,予測されるサイズである約700bpの遺伝子が増幅され,この遺伝子は先にサザンブロット解析に用いたヘテロロガスプローブと強くハイブリダイズし,染色体遺伝子解析で確認した単一遺伝子と同じ遺伝子であることを確認した。現在この遺伝子を用いて相同組換えを介した遺伝子破壊法が進展中である。また本遺伝子の配列決定,_cDNA,ゲノムライブラリーのスクリーニングも順調に進行している。本菌の分泌するプロテアーゼについても染色体遺伝子解析により少なくとも5つ以上の遺伝子の存在を確認し,ろ液中から5つの酵素活性画分を検出し,このうち3画分を単離した。これらはいずれもアルカリ性プロテアーゼで,一つはセリン型プロテアーゼでプロテア-デKに類することを阻害剤検定で明らかにした。
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