本研究では第1に、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gpd1^+)の浸透圧応答に関わるシス配列ならびにトランス因子の解析を行った。まず培地浸透圧に応答したgpd1^+遺伝子の転写開始点をS1マッピングにより決定した。決定した転写開始点の上流33塩基対付近にはTATA配列が認められた。浸透圧に応答した発現に関わるシス領域を決定するため、プラスミド上でgpd1^+プロモーター上流からの各種欠失変異遺伝子を作成した。これらのプラスミドで形質転換した分裂酵母(野生株ならびにwis1失株)を低浸透圧ならびに高浸透圧培地で生育させ、RNAを調節し、ノーザンハイブリダイゼーション法によってgpd1^+の発現量を解析した。その結果、転写開始点の上流52から92塩基対の領域に、浸透圧に応答した発現調節に必要なシス配列が存在することが明らかになった。この領域にはATF/CRE認識配列が認められた。最近、他の研究者によりgpd1^+の発現がAtf1(分裂酵母のATF/CREBホモログ)の支配下にあることが示された。よって、本研究によって明らかになったシス配列にAtf1が結合し、gpd1^+の転写調節を行っていると考えられる。 第2に、高浸透圧感受性変異株の取得と解析の過程で取得したfpd2^+遺伝子の機能解析を行った。fpd2^+遺伝子はgpd1^+欠失変異株の高浸透圧感受性を相補する多コーピ-サプレッサーとして取得され、グリセロール3リン酸デヒドロゲナーゼのホモログをコードしていた。fpd2^+欠失変異株を作成し解析したところ、fpd2^+遺伝子はグリセロール合成能を有するものの、高浸透圧耐性機構への関与は認められなかった。興味深いことにgpd2^+欠失変異株は、その生育にヒスチジンまたはリジンの要求性を示した。 今後、すでに取得している他の高浸透圧感受性変異株についても解析を進める予定である。
|