形態形成機構は、細胞周期や分化機構と連動した生物の基本的事象の一つである。形態形成は細胞内外の様々な情報によって制御される複雑な機構であるが、それら多様な情報の最終到達点は一細胞そのものであることから、多細胞における形態形成機構を理解する上で、単細胞での解析が必須であると考えた。そこで、高等動物と同様の細胞質分裂および極性成長様式をとり、その極性が細胞周期に依存してダイナミックに変化する分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)をモデル系として、形態形成機構の分子遺伝学的解析を行った。 今回の研究から新規な形成形成関連分子を数種同定した。(1)成長極性が欠損している変異体の原因遺伝子sts5を同定した結果、形態形成との関連性が示唆されていなかった進化上高度に保存された分子が明らかになった。遺伝学的解析から、Sts5蛋白質は、細胞周期間期における成長極性の維持に必須な遺伝子であり、他のMAPキナーゼ情報伝達系と密接に機能関連していることが示唆された。(2)成長極性における対称性の維持に欠損をもつ変異体の原因遺伝子alp2を同定した結果、Alp2蛋白質は微小管構成分子であった。alp2変異体は成長極性のみならず、細胞内オルガネラの分配異常も示すことから、極性成長における対称性の維持機構に細胞骨格系蛋白質が重要な機能を担うことを明らかにした。今回得られた結果より、分裂酵母の形態形成関連分子の解析が、高等動物の細胞形態を理解する上で極めて重要であることが示唆された。
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