研究概要 |
本研究では、N,N'ージアセチルキトビオースを鍵出発物として用い、癌転移との関わりで注目を集めているグリコサミノグリカン分解酵素等に対して阻害の期待される新規擬似2糖の合成研究を行うことを目的としている。本年度は昨年度に見出した擬似2糖誘導体のラジカル環化反応と分子内アミノ環化反応を用いて、還元末端糖残基部分が、D-gluco配置のみならずL-ido(β-L-xylo)配置となった新規擬似2糖類の合成を行った。 1,昨年度に合成したアジド誘導体の5位水酸基を、メシル化し、分子内環化反応に供するとL-アザイドース誘導体が収率良く得られた。次いで、接触還元を行うと、低収率ながらL-アザイドース誘導体を還元末端に有する新規擬似2糖が合成できた。この最終段階の脱保護をさらに検討しているが、D-gluco配置の場合と較べて反応生成物が非常に複雑になった理由として、ピペリジン環のコンホメーションがD-gluco配置のそれと大きく異なることが原因ではないかと考えている。 2,昨年度の結果を基に、キトビオース還元末端側のオキシムエーテル部分を変えてラジカル環化を検討した。メチルオキシムは同様に合成できたが、t-ブチルジメチルシリルオキシムは、そのヒドロキシルアミンのかさ高さのためかほとんど反応せず、合成に成功しなかった。また、水素化トリブチルすずを用いたラジカル環化反応は、ベンジル及びメチルエーテルとも選択性に大きな変化は見られなかったが、トリエチルボランを開始剤として低温下で反応を行うと、β-L-xylo配置の生成物の割合が大きく増加することもわかった。 3,合成品の擬似2糖類は、エキソ型のN-アセチルグルコサミニダーゼに対しては、ほとんど阻害活性を示さなかったが、昆虫キチナーゼに対しては弱い阻害活性を示した。他の酵素に対する活性試験は今後の課題である。
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