わが国の最重要穀物であるイネを対象とし、その主要なプロテイナーゼであり、種子貯蔵タンパク質の生合成過程での成熟化や、発芽時の栄養の供給のための分解を担うシステインプロテイナーゼ(オリザイン)の活性制御機構、とくに前駆体からの成熟化機構を解明することを目的として研究を行った。 オリザインβcDNAを用いてNおよびC末端プロペプチド(PP)を含む前駆体タンパク質を発現させるためのベクターを構築し、大腸菌内での発現を試みた。その結果、大腸菌の不溶性画分に目的のタンパク質の大量発現が認められた。この不溶性タンパク質の各種界面活性剤による可溶化を試みたが、ごく少量のみしか可溶性タンパク質として得られなかった。今後、さらに可溶化の条件検討を行う必要があると考えられた。わずかに得られた可溶性タンパク質はpH5付近でZ-Phe-Arg-MCA分解活性が最大となり、この条件下で自己触媒的にPPが切断されて成熟化することにより活性を獲得することが示唆された。 植物において、さまざまな前駆体タンパク質の成熟化を担うAsn残基特異的プロテイナーゼ(AEP)について、イネ種子における実体を明らかにするため、cDNAクローニングを行った。その結果、一種類のイネ種子AEPのクローンを得、その全一次構造を決定した。イネ種子AEPは豆類のAEPと60〜70%の相同性を有していた。cDNA断片を用いたノーザン分析により、種子の登熟および発芽の段階でAEPのmRNAが発現していることが確認された。さらに、この酵素の組み換え体の発現のためのベクターを構築した。これを利用することにより、オリザインの成熟化に対する作用が明らかになると期待される。
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