研究概要 |
黒潮フロントの蛇行に伴う低気圧性渦は,マイワシ等の稚仔魚あるいはその餌生物の輸送や分布に大きな影響を及ぼしている.また黒潮フロント付近は生産性が高く稚仔魚にとって好都合な海域となっている.しかしこの低気圧性渦に対応した生物の分布・動態・生産性については,よく理解されていない.そこで本研究では,1994年5月に遠州灘の黒潮前線域における低気圧性渦を観測した結果に基づいて数値実験を行い,現実の海洋でどの様に植物プランクトン量,栄養塩濃度,水温運動エネルギーが変化するかを再現し,渦の発生に伴う生物生産量を定量的に堆定した. 生物の基礎方程式は,クロロフィル濃度,植物プランクトン内窒素濃度,海水中の硝酸・亜硝酸態窒素濃度から構成されている.また物理モデルとしては,鉛直一次元モデルを用い,鉛直拡散係数はturbulent closureモデルから決定した. モデルを用いて数値実験を行った結果,渦が形成されてから4日目にそれまで一定であった植物プランクトンの増殖率が急速に減少すると共に,植物プランクトン内窒素濃度が最大となった.そして5日目にはクロロフィル濃度が最大値に達した.これらの結果は観測から求められた結果とよく一致している.また,海水中の硝酸態窒素濃度が1μM以下になった時点で増殖率は急速に低下したが,クロロフィル濃度はそれとは時間差を持って急速に減少していることから,植物プランクトンが二次生産を伴う捕食や沈降にまわされていることが分かった.またこれらの時間スケールとして渦が生成されてから約1週間弱で1サイクルの現象が終了することも,観測結果と一致する.この低気圧性渦による基礎生産量を見積もると,40gCm^<-2>y^<-1>となり,過去に推定された遠州灘沿岸域全体での基礎生産量の20〜30%を担っていると考えられる.
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