研究概要 |
遡河回遊魚であるシロウオLeucopsarion petersiの卵巣卵の成熟を誘導する要因として,淡水,暗黒,遊泳制約の他に巣中で生ずる個体間の接触による刺激について検討した.本実験では,巣に見立てたシャーレに次の条件で収容したときのGSIの変化と産卵について調べた.条件は雌雄一対,雄の代わりに雌またはスジシマドジョウ,シリコン製の模型を入れた場合,雌一個体のみの場合,雌雄が直接接触しない様に網で仕切った場合とした. その結果,雌雄一対,雄の代わりに雌またはスジシマドジョウを入れた場合では,他の場合より多数の個体が産卵し,産卵までの日数はシャーレ収容20日前後と他の場合より早かった.この日数は天然での営巣から産卵までの日数と一致した.また,GSIも他の場合よりもさらに高かった.飼育30日後のGSIの分散は,分散比29.90で収容条件間に有意差(p<0.01)が認められた.これらのことから他の個体との接触が卵巣卵の成熟を誘導する要因として重要であることが明らかとなった. また,河川で遊泳中の8個体と営巣中の24個体について,最終成熟に作用すると考えられる17α,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(dHp)を定量した.本種の血液量は少ないため卵巣を24時間L-15で培養し,培養液中に分泌されたdHpを酵素抗体法で定量した. その結果,営巣していた2個体から卵巣10mgあたり35.9pg/ml,50.3pg/mlが検出されたが,他の個体では検量線の信頼限界以下となった.このことより,遊泳していた個体ではdHpを分泌しておらず,さらに営巣していてもdHpを分泌している個体と,していない個体があったと言える.従って本種では産卵直前のわずかな期間にdHpが分泌されると考えられた.以上の諸結果より本種の卵巣卵の最終成熟には巣の中で生ずる個体間の接触が重要であると考えられた.
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