申請者らは、すでにコイのBリンパ球系細胞の増殖・維持が1ケ月以上可能な培養系を確立している。すなわち、コイの主要な造血器官である腎臓より細胞を分離・培養したところ、造血組織の間質由来と考えられる付着細胞層の形成が認められ、これら細胞層上で造血細胞の活発な増殖が観察された。培養下で増殖した細胞の性状を調べたところ、30〜60%の細胞でBリンパ球の特徴である、多数の指状突起が細胞表面に観察され、また、コイIgMのμ鎖に対するモノクローナル抗体を用いることにより1〜7%の細胞で細胞表面μ鎖が、また、0〜3%の細胞で細胞質内μ鎖の存在が明らかとなった。これらのことから、本培養中ではBリンパ球系細胞の増殖がおこっているものと考えられた。 以上の結果を踏まえ、今回の研究では、研究段階をさらに進め、培養下で増殖する細胞の分化段階を特定するため、コイのIgMのL鎖に対する単クローン抗体を作製し、蛍光抗体法を用いて調べた。その結果、一部の細胞で細胞表面L鎖の存在が証明され、また、細胞質内にもL鎖が証明された。これらのことから、本培養中では成熟型B細胞も存在するものと考えられた。現在、細胞表面μまたはL等の細胞表面マーカーを利用して、特定の分化段階の細胞を磁器ビーズ法を用いて回収し、微細形態的観察および免疫グロブリン遺伝子の再構成の有無等の検討を継続中である。また、本培養において、支持細胞層の形成が良くない場合、造血細胞の増殖も悪いことがわかっている。そのため、付着細胞層は造血細胞の増殖を支持する「feeder cell」として働いているものと考えられるが、現在これら付着細胞層を構成する細胞の形態を調べ、どのような細胞により構成されているかを調べたところ、形態的にマクロファージおよび線維芽細胞様の細胞が多く、また、脂肪細胞も少数観察されている。現在これら細胞の細胞株を作製中である。
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