研究概要 |
これまでに研究例のない海洋無セキツイ動物トランスグルタミナーゼ(TGase)の生理学的役割を検討することを企図し,筆者が発見した塩濃度依存型ホタテTGaseについて以下の結果を得た. 1.塩類と酵素活性の作用機序 (1)ホタテTGaseは0.6-0.8MのNaCl存在下で約20倍に活性が増大した.NaCl存在下でも酵素のタンパク質とアミンの両基質に対する基質親和性(Km値)は一定であったので,NaClの効果は非競合的作用と推察できた. (2)NaCl, KCl, LiClの効果は殆ど同じであったが,アニオンの効果は,NaCl=NaBr>NaNO_3=NaIの順に効果が見られた.この順位はコロイド水和力の順位と完全には一致しておらず酵素の立体構造上の特異性も重要であると考えられる. (3)酵素を単独にNaClと接触させると失活が見られたが,変性様式からNaClが単に酵素の熱安定性に影響を与えていることが判った. 以上の結果,NaClの作用機序は,アニオンが酵素の基質結合部位以外に影響を与え,構造をよりゆるやかにし,その結果酵素の触媒活性が上昇し,活性が増大する.また,基質がない場合は容易に熱失活をおこすものと推察できる. 2.酵素の生体内での基質 ホタテ筋肉ホモジネートに蛍光性アミンをとりこませて,TGaseの基質を検索した.その結果,0.5M NaCl存在下でミオシン重鎖に最も強くアミンの取り込みが確認できた.生体内の高分子タンパク質が主に反応に預かる事は,ホタテガイが海水中で機械的な傷を受けた際に,TGaseが活性を発現し,ミオシン等のタンパク質を絡めとって傷口を塞ぐという仮説を支持する結果であった. 今後,生息環境の異なる無セキツイ動物について塩類の効果を比較して塩類活性化の生理的意味を追求すると共に,ホタテTGaseのアミノ酸配列を解析し,構造と機能の相関を解明する必要があると考えている.
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