マウスリンパ性白血病細胞のL1210のcytosol画分中に制癌剤アドリアマイシン(ADM)と特異的に結合する蛋白を単離し、それがproteasomeであることを同定した。L1210細胞のcytosolから精製した26 S proteasomeはADMと同様の薬理作用を持つ光架橋剤を導入したN- (p-azidobenzoyl) -ADM (NAB-ADM)に対して高い結合親和性を示し、UV照射によりphotoaffinity labelされた。このLabelされた26 S proteasomeのSDS-PAGEから、20S proteasome (21-31kDa)領域がADMに最も高い結合親和性を示すことが明らかとなった。 L1210細胞をNAB-ADMでin situ photoaffinity labelingすると、核およびcytosol画分から単離したproteasomeがNAB-ADMでlabelされていたことから、proteasomeがADMを細胞質から核内へ移行させるためのtranslocatorであると示唆した。Proteasomeはその分子内に核局在化シグナルを有することから、特に癌細胞等の増殖の活発な細胞の核に局在することが知られている。これらのことから、proteasomeがADMの核移行translocatorであることを立証するために、ADM-proteasome複合体の核移行について検討した。L1210細胞に低濃度のdigitoninを処置し、細胞膜に特異的に孔をあけ、核蛋白輸送能を維持したsemi-intact cellsを作製した。この細胞にNAB-ADMと26 S proteasomeの複合体を添加すると、その複合体は、ATPの存在下で、digitonin処置L1210細胞の核に移行した。その移行はATP非存在下または低温処置によって減少した。ATP存在下におけるNAB-ADMとproteasomeの複合体の核移行は、各種protein kinases阻害剤やphophsataseの前処置によって顕著に影響されなかった。 以上のことから、proteasomeはADMを細胞質から核内へ移行させるための特異的なtranslocatorであり、ADMの結合部位としては20 S proteasome領域が最も重要であると考えられる。また、proteasomeの核移行は、他の核局在性蛋白とは異なり、核移行に細胞質因子を必要とせず、蛋白リン酸化以外のATPを介した系によって調節されると推定される。
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