鶏雛の凍結外傷および急性鉛脳症のアストロサイト(AC)の反応性についてGFAPおよびglutamine synthetase (GS)、G1期後期からS期に発現するPCNAに対する抗体を用いて免疫組織化学的に検索した。正常脳では7日齢までpaleostriatumのACがGFAP弱陽性を示すだけであったが、13日齢から軟膜下や脳幹の細胞が陽性を示すようになった。GS陽性細胞は、実験期間を通じて脳全体にびまん性に散在していた。凍結外傷は麻酔下でドライアイスを3日齢の雛の頭部皮膚に接着させて作製した。病巣作製後2日目には軟膜下に出血を伴う広範な壊死が形成されていた。組織学的には、壊死の周囲に出血、浮腫、マクロファージの浸潤、ACの腫脹がいずれも軽度に認められた。4日目には病巣周囲に限局した浮腫があらわれ、脂肪貪食細胞が目立つようになり、その周囲にはGFAP強陽性・PCNA陽性細胞が見出された。10〜20日目には、ACと間葉系細胞の増殖が著明となったが、そのACの抗GFAP抗体に対する染色性は弱まり、その数も減少していた。この一連の反応は極めて限局的でGFAP陽性細胞の出現も病巣周囲に限られていた。したがって、本実験例ではACの反応時期は哺乳類と同様であったが、周囲脳実質の浮腫性変化は軽微でACの反応も限局性軽度であることが特徴といえる。3日齢の雛に鉛塊を摂取させ作製した鉛脳症では小脳に主座する浮腫と点状出血が認められ、死亡率は31%であった。その脳では10、20日目に対照よりも強いGFAP陽性ACがびまん性に認められ、毛細血管が障害された場合には微弱であるが速やかに反応することが示された。以上の所見から、鶏のACの反応性は一般に哺乳類と比較して弱いことが示された。哺乳類では浮腫液の存在がACの移動能と密接に関連する。鳥類の脳に見られるこの細胞の不活発な反応態度には広範な外傷などによっても浮腫が起こりにくいという鳥類の脳の性状と関連があると推察された。
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