研究概要 |
インフルエンザA型ウイルスノイラミニダーゼ(NA)はホモ4量体のウイルス主要膜糖蛋白質であり、その高次構造形成にはアスパラギン結合型糖鎖が重要な役割を担っているとされている。本研究ではNA頭部領域に存在する3カ所の糖鎖結合部位(Asn84,144,398)に糖鎖が結合できない変異NAを作成し、糖鎖の欠失がNAの高次構造形成と機能に及ぼす影響について検討した。 A/duck/Ukraine/63株由来のクローン化されたN8型NA遺伝子の、糖鎖結合配列(Asn-X-Thr/Ser)対応塩基に人工変異を導入し、3種の変異NA遺伝子、HG-1(Thr86→Asn)、HG-2(Asn144→Tyr)、HG-3(Ser400→Asn)を作成した。変異遺伝子は、ワクシニアウイルスWR株をベクターとしてMDCK細胞で発現させ、放射免疫沈降(RIP)を行った。また、各変異NAの酵素活性をFetuin、3'-N-acetylneuramin lactose(NAL)および6'-NALを基質として測定した。 RIPの結果、HG-2 NAでは、野生型NAよりも低分子量の特異的バンドが検出され、正常な立体構造をもつNA単量体の存在が認められた。一方、HG-1、HG-3では、特異的なバンドは検出されなかった。酵素活性の測定では、HG-2のみが野生型NAと同様Fetuin,6'-NALに対する活性を示したが、野生型NAと比較してHG-2の6'-NALに対する活性は相対的に低下していた。。 以上の結果から、Asn84およびAsn398糖鎖結合配列中のアミノ酸置換により、N8型NA頭部の高次構造形成が阻害されることが示された。一方、Asn144の置換による糖鎖の欠失は、高次構造形成には影響を及ぼさないことが、酵素の基質特異性に影響を与える可能性が示唆された。
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