粘液細菌Myxococcus xanthusは、飢餓条件下で社会的な行動をとり多細胞による分化を行う。固体培地上で飢餓条件におかれると細胞は集合し子実体と呼ばれる多細胞構造体を形成する。子実体への分子に伴いM.xanthus細胞は長桿菌から球形の胞子へと細胞形態を変化させる。本研究ではオートリシスを起こす原因ともいわれ、M.xanthusの分化において必須の現象である細胞の形態変化に関与する遺伝子を同定することを目的とした。 そこでまずM.xanthus変異株の作製を行った。転移性遺伝子トランスポゾンV(TnV)をP1ファージを介してM.xanthus染色体に挿入させることで、変異株643株を作製し、分化誘導培地において集合体を形成するものの胞子形成に移行せずに桿菌のままで存在している6種の変異株を分離した。 これらの変異株の染色体上におけるTnV挿入領域をクローニングし、変異領域の一部の塩基配列の決定しホモログ検索を行った結果、1種の変異株についてCoAデカルボキシラーゼとのホモロジーが確認された。そこでこの遺伝子の全塩基配列を決定しCoAデカルボキシラーゼとのホモロジーを確認した。次にこの遺伝子の発現時期を調べるため野生株より様々な分化時間におけるRNAを抽出し、変異遺伝子をプローブとしてノーザン分析を行った結果、この遺伝子は栄養細胞には発現があまりみられないものの分化開始と共に発現が増加し、細胞形態が大きく変化する約60時間において発現が急激に増加していた。脂肪酸の合成に関わっていると言われるCoAデカルボキシラーゼの働きを調べるため、変異株と野生株の対数増殖期と分化中の脂肪酸組成を分析した結果、野生株において分化中に増加する一部の分岐脂肪酸が変異株において野生株より低い割合で存在していることが確認された。
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