研究概要 |
前駆体蛋白質のER膜透過はシグナルペプチド(SP)を介して進行する。SPは、アミノ末端の正電荷を含む領域(N領域)、中央部の疎水性領域(H領域)、とカルボキシル末端領域(C領域)の3つの領域から成る。これらSPの構造とその機能について詳細なin vitro解析はほとんど行われていない。そこで、SPの構造とER膜透過における機能を解明するために以下の研究を行った。 (1)これまで大腸菌の膜透過実験に用いてきた、H領域を人工的にすべてロイシン((L)n,n=5,7,8,10,12,14,20)に置換した種々のproOmpF-Lppのシグナルペプチド(SP)を、cDNA上で牛プレプロラクチンの成熟体部分につなぎ、モデル蛋白質proOmpF-PL(L-series)を作製した。これらのmRNAをイヌ膵臓小胞体膜存在下、小麦胚芽蛋白質合成系で翻訳し、SPの切断を指標として膜透過効率を調べたところ、Lの数が10で最大になった。 (2)次にSPとシグナル認識粒子(SRP)の相互作用について翻訳停止効率を調べたところ、膜透過効率の場合と同様10Lで最大になった。しかし、それ以上数が増えても効率はほとんど変わらなかった。これらから、SPのSRPによる認識と膜内での認識の特異性は若干異なることが示唆された。 (3)H領域にロイシンよりも疎水性の弱いアラニンも含む配列にしたモデル蛋白質proOmpF-PL(AL-series)を構築し同様の実験を行った。膜透過効率、SRPとの相互作用共にL-seriesの結果と似ていたが、最大効率は12ALあるいは14ALで得られ、要求される長さは長くなった。つまり、シグナルペプチドの疎水領域はその長さというより全体の疎水性度がSRPとの相互作用とそれに引き続く膜透過反応に重要であることが明らかになった。
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