研究概要 |
種々の動物において上,下大静脈の心臓に連なる部位には心筋が存在する。先に私どもはヒトにおいて上,下大静脈における心筋の組織学的分布を光学顕微鏡を用いて初めて明らかにした。本研究は実験動物において心筋の分布の詳細を電子顕微鏡的に明らかにして,さらに実際の収縮の様式を知ることを目的とした。 材料としてラットを用いた。グルタルアルデヒドで全身潅流後,右心房とともに右上大静脈を摘出し,さらにグルタルアルデヒドで固定した。その後水酸化カリウム-コラゲナーゼによる組織消化法を施した。標本は導電染色し,脱水,臨界点乾燥後,走査電子顕微鏡で観察した。この結果,右上大静脈において結合組織が完全に除かれ,心筋の分布,配列,個々の線維の立体微細形態,心筋同士の結合の状態等が立体観察されていた。心筋は右心房から連続しており,鎖骨下動脈の分岐をこえて総頚静脈まで続いた。心筋は主に長軸方向,あるいは斜めは配列し,末梢にいくにしたがって横走していた。心筋の直径は10-20μm,長さは50-100μmで,心筋細胞の枝分かれの状態,心筋同士の結合の様子は右心房における心筋と同様であった。 今回の研究では,実際に大静脈の収縮の状態を知るには至らなかった。しかし,走査電子顕微鏡による観察の結果,大静脈の心筋は右心房の収縮と連動して収縮し,拡張期に静脈還流を促進するか,収縮期に大静脈への逆流を紡ぐ弁として働いていると考えられ,大静脈の心筋の機能的意義を考える上で重要な情報を得た。
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