申請者はこれまで、in vitroの実験から、生理活性物質であるエンドセリン(ET)-1がグリア細胞の一種であるアストロサイトに対して強力な増殖因子として作用し、その細胞内情報伝達系にprotein kinase C依存性とras依存性の独立する2つの経路があることを証明するとともに、in vivoの実験から、脳傷害後の傷害部位において組織内ET-1濃度が有意に上昇することを見出している。そこで本年度は、以下の2つのテーマについて検討した。 1)ET-1のアストロサイトにおける増殖シグナルのうち、ras依存性pathwayの感受性が細胞分化に伴って増加することを予備的実験から確認しているので、その機構のspecificityを検討するとともにmechanismについても検討を加えた。 2)中枢神経系(CNS)傷害後の組織再構築過程におけるアストロサイトの増殖に内因性ET-1が生理的に関与するか否かを、脊髄損傷モデルラットおよび一過性虚血傷害脳モデルラットを作製し、それらの傷害後のアストロサイトの増殖におけるET-1の関与を検討した。 結果) 1)現在、このテーマに関しては引き続き検討中であるが、ET-1以外に少なくともaFGFにおいても同様の現象が認められること、また、この細胞分化に伴う感受性の増加は単純に受容体の発現レベルのみでは説明がつかないことも明らかにしている。 2)脊髄損傷ラットにおいて傷害部位でのET-1濃度の上昇に準じて、RC1-positive(RC1:未分化なグリア細胞を認識するmonoclonal antibody)かつBrdU-positiveの細胞が出現する。しかし、ET受容体のnonselective blockerであるSB209670を傷害部位に共存させると、このグリア細胞の増殖が抑制された。また、一過性虚血傷害脳モデルラットでは、脳傷害部位から調製したextractによる培養アストロサイトに対する細胞増殖活性が、ET-1の中和抗体によって抑制された。これらのことから、CNS傷害後の組織再構築過程におけるアストロサイトの増殖に、内因性ET-1が生理的に関与することを直接証明することができた。これらの成果を、Brain Res.およびJ.Neurosci.Res.に発表した(研究発表の項を参照)。
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