研究概要 |
家族性心筋肥大症はトロポニンTやβ-ミオシン重鎖などの心筋のサルコメアを形成するタンパク質のミューテーションにより惹き起こされることが、報告されている。本研究ではそのうちトロポニンTの二つのポイントミューテーション、Ile79→ArgとArg92→Gluのそれぞれをもつヒト心筋トロポニンTミュータントを遺伝子工学の技術を用いて発現・精製し、その生理学的性格をワイルドタイプのヒト心筋トロポニンTと比較検討した。 ミューテーションをもつそれぞれのタンパク質はワイルドタイプと同様にウサギ心筋から精製したトロポニンの他のサブユニット,トロポニンI,Cと結合し3量体を形成した。次にトロポニンTミューテーションの心筋の張力に及ぼす影響を検討するために、ウサギ摘出心臓の左心室肉柱より調整したスキンドファイバーを弱酸性、高イオン強度下に過剰量の人工的に調整したトロポニンTにより処理するという既報の方法によってウサギ筋繊維中のネイティブのトロポニンTをヒト心筋ワイルドタイプ、Ile79Arg,Arg92Gluの3種のトロポニンにそれぞれ置き換えた。これらの再構成されたファイバーを用いて張力測定を行ったところ、ミュータントタンパク質で再構成されたスキンドファイバーではワイルドタイプで再構成されたものと比較して張力を発生させる際のCa^<2+>への感受性が高いことが判明した。このことは、これらのミューテーションによる心筋肥大症の裡患者に多発する突然死の原因を解明する糸口となるかもしれない。
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