研究概要 |
肺腺癌における肺内転位(pm)と、異型肺腫様過形成(atypical adenomatous hyperplasia,AAH)と違いを明らかにする目的で、1987年のTNM分類に従って肺腺癌のstageごとの5年生存率を算出し、pm(+)と診断された症例の組織学的再検討を行った。pmとAAHについては、Ki-67抗体と、p53、p21およびnm23の遺伝子産物、さらにCD44について免疫組織化学的の原発巣といかなる差異があるのかを検討した。結果は、5年生存率はStage I 73.5%、Stage II 62.5%、Stage IIIA 47.8%、Stage IIIB 16.8%、Stage IV 27.6%であった。このStage IVの中で肺内転移のみ陽性を示す群の5生率は31%であり、Stage IIIA,IIIBと比べ有意の差が認められなかった。そこでStage IVの症例を、T0-1,N0群とそれ以外の2群に分けると、前者は16例で、5生率は75,8%、後者は25例で5生率は0%であった。この予後良好群の中には、現在の診断基準ではAAHと判断される病変が多く見いだされ8例(8/16=50.0%)あり、予後不良群中には、AAHは4例(4/26=15.4%)認められた。Ki-67、p53、nm23いずれの免疫組織化学的検討でも、原発巣とAAHでは異なった染色態度を示していた。pmについては、原発巣で発現の認められた項目についてはすべてpmでも発現していた。今回の検討では、原発巣とpmは同様の性質を有しているがAAHとは異なった性質の病変であるという結果が得られた。またAAHをpmと診断したことが、Stage IV群の5生率を上げていた可能性が示された。今後"AAH"をいかなる範疇に入れるのかを含めた、病理組織診断のための診断基準の確立が望まれる。
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