研究概要 |
一過性脳虚血の後、ある一定時間を経過したのち神経細胞死をきたすことが知られており、特に海馬、中でもCA1と名づけられた領域において、この現象が顕著に観察され、遅発性神経細胞死と呼ばれている。近年、様々な疾患、病態におけるapoptosisの関与が明かにされつつあるが、特に最近ではapoptosisを促進する働きのある蛋白Bax及びapoptosisを抑制する働きのあるBcl-2の検索がapoptosisを理解する上で重要視されている。Bax,Bcl-2の発現を、ヒト病理解剖の検体を使用して死亡前の神経機能の状態、痴呆の有無などと対比させながら検討することを目的として、研究を計画した。Bax,Bcl-2の中枢神経系における発現は、ラットなどの齧歯類では、明かとなっているが、高次神経系を持つヒトにおける発現の報告はないため、先ず、(1)ラット、ヒトそれぞれにおけるBax,Bcl-2の発現分布の共通点、および相違を免疫組織学的に検討した。apoptosisに関与する重要な蛋白であるBax,Bcl-2の発現分布はラット、ヒトにおいて多くの共通点を認める一方、ヒトにおいては、虚血に対して弱いとされている海馬神経細胞および小脳プルキンエ細胞において強いBaxの発現および極めて弱いBcl-2の発現を認めた。次に(2)脳神経系に二次的に脳虚血を来す重要な病態であるクモ膜下出血の原因でわる脳動脈瘤の成因におけるapoptosisの関与をヒト病理解剖の検体を使用して、TUNEL法によるDNA fragmentation及びapoptosis関連蛋白、Bax,Bcl-2の発現をあきらかとした。現在、研究はさらに進行中であり、様々な疾患、病態における遅発性神経細胞死とapoptosisの関係についてヒト病理解剖の検体を使用しての検索を行っている。遅発性神経細胞死、apoptosiとヒトの神経機能、痴呆との関係を考察していくには、ヒト病理解剖の検体においての検討がぜひとも必要であると考える。
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