研究概要 |
外科的に切除されたヒト食道扁平上皮癌及び尿路系移行上皮癌のホルマリン固定材料をパラフィン包埋とし、これによりスライド切片を作製し抗p53、各種cyclin、Retinoblastoma protein(pRb)抗体を用いた免疫組織化学的検索を行い、各々の発現状況を患者の予後及びそれぞれの癌の悪性度を示唆する臨床病理学的因子との関連において統計学的に比較検討した。上記材料のうち、特にヒト食道扁平上皮癌においては、その一部の未固定新鮮材料を用いて凍結切片を作製し、それぞれの癌組織より個別にDNAを抽出し、これを鋳型としてp53遺伝子のExon4-9それぞれについてPCR-SSCP法を行い、異常を検出した材料においてはDirect Sequencing法を用いて、p53遺伝子の変異の有無も比較検討した。ヒト食道扁平上皮癌においてはp53蛋白過剰発現と遺伝子変異は85%以上の症例でよく相関したが、過剰発現のみ認められる症例も5%以下で認められp53遺伝子のExon4-9以外にも変異の存在する可能性を示唆した。患者の予後及び臨床病理学的因子との関連においては、p53と同様にcyclin A、D1、pRbいずれもこれら因子との有意な相関がみられ、p53癌抑制遺伝子産物とそれにより細胞周期にて抑制的に調節されているcyclin(A,D1)、さらにその下流に位置するRb遺伝子産物各々の異常発現が、腫瘍進展に重要な役割を担っていることが示唆された(:Clin.Cancer Res., : Am.J.Gastroenterol.,revised. : Brit.J.Cancer,submitted.)。ヒト尿路系移行上皮癌においても上記抗体による検索にて、患者の予後及び臨床病理学的因子との有意な関連を示すことができたが(:Clin.Cancer Res.,revised.)、cyclin D1発現においては他の腫瘍に比較して頻度が低く、尿路系移行上皮癌のcyclin D1発現における腫瘍特異性を示することができた(:Oncology Reports)。さらに同腫瘍においては、p53とcyclin Eの同一腫瘍細胞における過剰発現をおよそ25%の症例で認め、これら同時陽性を呈する症例は他に比較して有意に患者生存率の低下をきたし、臨床病理学的予後因子と成り得ることを示した(:Brit.J.Cancer,submitted.)。
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