研究概要 |
食道ルゴール塗布法により肉眼的にも観察しうる上皮内の軽微な形態異常を明らかにするために、背景粘膜にルゴール不染帯の多発している食道がん全割切除材料12例の不染帯157病変を対象に不染帯の大きさとその組織所見とを対比した。5mm以下の不染帯は93病変見られ、その内訳は、上皮萎縮9病変(10%)、軽度異形成69病変(74%)、中-高度異形成10病変(11%)、がん5病変(5%)で、6-10mmの不染帯は、41病変見られ、その内訳は、上皮萎縮1病変(2%)、軽度異形成28病変(68%)、中-高度異形成7病変(17%)、がん5病変(12%)で、11mm以上の不染帯は、上皮萎縮0病変、軽度異形成7病変(29%)、中-高度異形成0病変、がん16病変(67%)見られた。不染帯の大きさが増すにつれて異形度も増す傾向が見られた。軽度異形成とした104病変の中には、リンパ球浸潤を伴うもの21病変(20%)、上皮厚の減少を伴うもの17病変(16%)及びその両者を伴うもの15病変(14%)が見られた。さらにメタノール固定全割切除材料3例の非がん粘膜における不染帯33病変(軽度異形成病変)を対象にcytokeratin1,14,19,PCNA及びp53遺伝子産物の発現異常を検索した。正常食道上皮では陰性のcytokeratin1のsuprabasal layerにおける発現異常が13病変(39%)に見られ、正常食道上皮では基底層に一致した発現の見られるcytokeratin14が30病変(91%)においてsuprabasal layerにおいても見られた。正常食道上皮では、乳頭部においてのみ発現の見られるcytokeratin19が全病変においてsuprabasal layerにも発現が見られた。PCNAのindexの上昇は、22病変(67%)に見られ、p53の発現異常は、16病変(48%)に見られた。ルゴール小不染帯の中には、分化異常や遺伝子異常を伴う病変が高頻度に認められ、それらの肉眼的にも観察しうる小病変は、扁平上皮がんの発がん初期病変の解明のために重要な変化と考えられる。
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