大腸癌の浸潤機構の解明を目的とした、3次元的な培養系によって大腸癌細胞の間質浸潤能を形態学的に定量化する実験モデルをin vitroで作成し この系を用いて大腸腺癌株WiDr細胞が示す肝細胞増殖因子HGF依存性浸潤機構の検索を行った。 RhoA・p21は細胞運動の制御に重要な働きをする低分子量GTP結合蛋白であり、またHGFによって活性化されることが知られている。そこで平成8年度は大腸癌細胞の浸潤能に及ぼすRhoA・p21の活性化の影響に焦点を絞って検索を行った。CMVプロモーター下に活性型rhoA・Val^<14>遺伝子をWiDr細胞に導入し9株のtransfectantを得た。それらの間質浸潤能を検討した結果、1株のみが僅かに浸潤能の亢進を示したのみで非活性型rhoA・Vala^<14>Ala^<37>導入細胞、あるいはベクター導入細胞との間には有意に差を認めなかった。この結果からはHGFによって誘導される間質浸潤能はRhoA・p21単独の活性化のみによっては誘導され得ない可能性が示唆された。しかし、これまでの実験では導入遺伝子の蛋白産物が極めて少ない問題があり、現在は遺伝子の5'UTにKozak consensus配列を付加し高発現株の作成を試みている。今後は作成した活性型rhoA遺伝子導入細胞において浸潤能が実際に亢進するのかをin vitroの実験でさらに検討を加えていく。またHGFによって亢進するWiDr細胞の浸潤能をdominant negative formのrhoA(Val^<14>Asn^<19>mutant)遺伝子の導入によって抑制できるかも現在検索を行っている。 本研究によって大腸癌細胞の浸潤におけるRhoAの活性化の役割に関して新知見が得られものと期待しており、癌の浸潤、転移を抑制する治療にも結びつけていきたいと考えている。
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