本研究では、B16メラノーマ(B16)にマウスB7.2cDNAを市販CMVプロモータプラスミドベクターを用いて形質導入し、B16/B7.2-97安定発現株(B16B7)を樹立した。B16野生株(B16wt)及びB16B7をB6マウス皮下に1×10^6個接種し、増殖速度を観察したが両者に有意差はなかった。続いてクラス1遺伝子の形質導入を試みたが、α鎖のみでは困難であったため、これと平行して新たな実験系も計画した。すなわち、B16はマウスIFN_γ刺激にてH-2K^b、2D^bのいずれも高度に発現することが判明したため、B16B7、B16wtを200U/mlのIFN_γで48時間刺激した後、B6皮下に接種し腫瘍増殖速度の相違を観察した。完全拒絶には至らなかったが、コントロール群に比し明らかにB16B7IFN_γ処理群で腫瘍増殖速度の低下がみられ、腫瘍内浸潤リンパ球(TIL)の増加と腫瘍細胞の広範な壊死が認められた。また、B16wtIFN_γ処理群にも腫瘍増殖速度の低下傾向がみられた。注目すべきは、B16B7IFN_γ処理群で、自作IL-2プローブ(421bp、ジゴキシゲニン標識)を用いたin-situハイブリダイゼーションにて、TILに強い染色性がみられたことである。これは、クラス1抗原のみの発現ではアネルギーに陥っていたT細胞が、B7.2形質導入腫瘍株により効率的に抗原呈示され、活性化されたことを示唆する。これは、腫瘍細胞を抗原呈示細胞類似の状態にするという、本研究初期の目標を達したものである。以上の結果をまとめ、論文投稿準備中である。なお、クラス1遺伝子の形質導入については、β2Mとの共発現や他の発現ベクターの利用により導入株の樹立が見込まれる。また、EL-4リンパ腫へのB7.2遺伝子の形質導入についても単独では成功しなかったが、SV-401argeT抗原の共導入が必要であることが判明し、共導入をはじめた。
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