研究概要 |
多嚢胞腎症(以下PKD)は進行性に腎実質が嚢胞に置換され腎機能障害を生じる疾患である。我々は、Takahashi et al.(1992)によって確立されたヒト成人型先天性PKD類似病変を遺伝的に発生するDBA/2fg-pcyマウスを用いて、腎尿細管が嚢胞に変化していく過程を、細胞死の観点から検討した。同マウス腎は、生後2週間以前は対照動物と比して異常を示さないが、3週間以降、進行性に嚢胞化を示し、生後3ケ月ではヒト多嚢胞腎症に類似する所見を示した。in sutu end labelling法を用いた検討では、生後4-8週のマウス腎の拡張を示す尿細管上皮の核に陽性像が高率に認められ、細胞死が生じている事が知られた。超微形態学的には小器官の膨化、細胞質の水腫、膜の断裂が認められた。アポトーシスに特徴的とされる核染色質の濃縮や核の断片化は認められなかった。ランタンコロイドを用いた検討では、細胞内小器官膜表面へのコロイド粒子の付着が認められ、膜透過性の異常亢進があることを示した。ゲノムDNAはスメア状のパターンを示した。ノザン法を用いた検討ではアポトーシス関連遺伝子であるbcl-2, FAS抗原遺伝子の発現は同年齢のDBA/2マウスとの間に相違を認めなかった。本研究で見られた細胞死はMajnoとJoris(1995)によって提唱されたoncosis(1995)に一致する。以上の結果から、尿細管上皮細胞の、アポトーシスと異なる経路の細胞死がPKDの成立に重要であることを示された。
|