本研究の目的は、糞線虫の成虫が宿主腸管内において寄生しているのと相同の状態をin vitroでつくり出し、糞線虫排除にかかわると推測されている種々の候補物質を投与してエフェクター物質を同定することであった。まず培養条件であるが、短期間の培養において糞線虫の成虫は特に複雑な組成の培養液は必要とせず、リン酸緩衝液で十分であることが分かった。培養実験において我々は糞線虫の成虫が口端から粘液様物質を分泌し、培養用フラスコの底面に強く接着することを見い出した。この接着物質はレクチン結合性や抗原性などの検討から明らかに寄生虫由来であり、糞線虫の腸管内定着において重要な役割を持っていると考えられた。寄生虫の接着は通常の組織培養用フラスコとコラーゲンやラミニンをコートしたフラスコとでは有意な差はなかった。 次にこの培養系に、肥満細胞に含まれていることが知られているヘパリンやコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、また硫酸デキストランなどの硫酸化多糖を加えたところ、寄生虫のフラスコへの接着は用量依存性に阻害された。この接着阻害は阻害剤として加えた硫酸化多糖の硫酸基の数と相関しており、二糖当たり2個以上の硫酸基が結合している多糖で特に強い阻害がみられた。これらの阻害が起こるメカニズムは現在検討中であるが、予備的な実験によると糞線虫の接着物質とグリコサミノグリカンの結合によるものと考えられる。 以上から、本課題研究の目的であったエフェクター物質同定のためのin vitro測定系の開発は、ほぼ達成されたと考えられ、また候補物質としてはグリコサミノグリカンが強く疑われる結果を得た。今後は、グリコサミノグリカンが糞線虫排除のエフェクター物質であることをin vitroだけでなくin vivoの系においても証明していきたい。
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