Helicobacter pyloriは、胃炎、胃潰瘍さらに胃癌との関連が指摘されている。この菌の持つ病原因子を特定することが本研究の最終的な目的である。この目的のため、平成7年度の科学研究費により、臨床分離株76株のH.pyloriについて疾患と遺伝子型の関係を調査した。その結果、十二指腸潰瘍、胃癌および胃潰瘍の各疾患それぞれに対し、統計的に有意な関連性を示す遺伝子型が存在することを見出した。このことは、H.pyloriのすべてがこれらの疾患に関与するのではなく、特定の菌株が、何らかの特別な病原因子を保有することを示唆するものである。本年度は、この実験結果を基に、病原因子、特に癌化に関係した病原因子を保有すると思われる菌株に対象を絞り、遺伝子ライブラリーを作製して、H.pyloriの病原因子を明らかにするための実験の行った。まず、癌化因子を保有していると考えられる2株のH.pyloriのDNAを抽出・精製し、制限酵素あるいはDNaseによる完全・不完全分解を行い、真核生物用発現ベクターpCD2Yにクローニングしてプラスミドライブラリーを構築した。引き続き、ライブラリーからプラスミドを抽出・精製した。こうして得られたプラスミドを、癌化因子の検査に多用されるNIH3T3細胞およびBRK(bady rat kidney)細胞にトランスフェクトし、トランスフォーム活性とイモータライゼーション活性の有無を観察した。一連の実験により、今回使用した発現ベクターpCD2Yは、強力な遺伝子発現効率を持っているものの、DNA断片のクローニング効率が低いことが判明した。このため、作製したライブラリーが癌化因子をスクリーニングするには十分でなく、癌化因子を特定することが出来なかった。このため、次年度では、数種類のベクターでライブラリーを再構築する予定である。
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