本研究では、腫瘍内増殖を極く少数の黄色ブドウ球菌の定着で感染が成立する局所感染のモデル系としてとらえ、定着した菌の初期増殖に必要な要因を明らかにする事を目的とした。この一年間で得られた研究の成果は、以下のとうりである。 1.宿主要因の検討:Ehrlich腹水癌細胞をマウスの皮下に移植した腫瘍組織内には、腹水に混入していた白血球や宿主由来の白血球が多数存在する。そこで、黄色ブドウ球菌に対する初期の感染防御に重要と思われる好中球を腹水から単離し、黄色ブドウ球菌と、腫瘍内では増殖しない腐性ブドウ球菌の貪食・殺菌能をin vitroで比較した。30分間の培養の結果では、この好中球による貪食のされ易さは両菌種で変わらなかったが、殺菌では黄色ブドウ球菌の方が腐性ブドウ球菌より殺菌されにくかった。また菌を貪食した好中球を細胞外の菌を取り除いてから培養を続けると、殺菌され残った黄色ブドウ球菌は4時間後から増殖を始めたが、腐性ブドウ球菌はほとんど増殖しなかった。これらの菌株では、好中球の作用に対する抵抗力の差が腫瘍内増殖能に反映していると考えられた。 2.腫瘍細胞要因の検討:Ehrlich腹水癌細胞をマウス腹腔で増やす代わりに10%ウシ胎児血清添加培養液でin vitro培養して用いた場合、黄色ブドウ球菌の腫瘍内増殖は大幅に遅延した。ウシ胎児血清の代わりに腹水上清を加えて培養した腫瘍細胞を用いると、腫瘍内での黄色ブドウ球菌の初期増殖が回復した。従って腫瘍細胞の生理的な条件も黄色ブドウ球菌の増殖に関与することが分かった。
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